2010.12.7
最近の1冊  「お嬢さん」(三島由紀夫、角川文庫)

「お嬢さん」(三島由紀夫、角川文庫)


 三島由紀夫没後40年フェアというコーナーで、他の有名三島作品が並ぶ中、こんな作品三島にあったっけ、ということで購入してみました。
 三島没後40年かぁ。思い出すなあ。大学受験を控えた冬の昼休みに、右手を腹にあてながら、「三島由紀夫が自衛隊で自決したあー。」と大声で叫びながら教室に飛び込んできた築地君の姿を。昭和45年のことだから確かに没後40年だ。
 ところで「お嬢さん」は今風にいえば婚活小説です。「大海電気取締役の長女藤沢かすみは20歳の女子大生、健全で幸福な家庭のお嬢さま。休日になると藤沢家を訪れる父の部下の青年達は花嫁候補だ。かすみはその中の1人、沢井に興味を抱く。が、彼はなかなかのプレーボーイで、そんな裏の顔を知り、ますます沢井を意識する。かすみは『何一つ隠し立てをしないこと』を条件に、沢井と結婚するが・・・」、沢井の結婚前の浮気相手(エル・ドラドウの浅子さん。クラブの女じゃなくて、銀座の紳士洋品店の店員です。このあたり時代感覚がでていますね。)の登場がかすみの心に大きくしかかる。しかし嫁に送り出した家族はそんなことは露も知らず、理想的な結婚だと喜んでいる。揺れ動くかすみに対して、最後はその女性浅子が絡んでハッピーエンドを迎えるという、お嬢さんの心を描いた内面小説だと思います。一言一言の言葉によって揺れ動く心、言葉は魔力ですね。そしてまた女性の心理の複雑さは昔も今も変わらないものですね。もっともお嬢さんは自分で勝手に苦しみを作り出して悩みもがいていますが。
 三島のこの小説での表現方法は、何故か松本清張を思わせるものがありました。文体がどこか似ている気がします。女性誌に連載された三島35歳のときの作品で、三島幻のエンターテインメント作品だそうです。同時並行で本作品と正反対の男女関係を描き、裁判にもなってしまったあの「宴のあと」を連載していたというのだから、三島恐るべし。はたまた「宴のあと」の息抜きとして書いたものなのか。それにしても書かれた時代をあまり気にせずに読める小説でした。
 没後40年の折り、皆さんも三島作品を読んでみてはいかがでしょうか。
 ちなみに11月25日が三島の自決した日です。
                                                                             以 上(K)