2010.12.24
最近の1冊  「民宿雪国」(樋口毅宏、祥伝社)

「民宿雪国」(樋口毅宏、祥伝社)


 「梁石日氏絶賛の問題作!」「かつてない刺激的にして衝撃的な読書体験!」「この小説の衝撃をどのように伝えればいいのだろう?」「すべてが刺激的だ。」
 帯にこれでもかと書かれた本書評である。
『丹生雄武郎(にう ゆうぶろう)は2012年8月15日に亡くなった。享年97歳だった。
 彼は国民的画家として愛される一方で、長年にわたって寂れた民宿の主であったが、その人生は多くの謎に満ちている。本人が鬼籍に入ったため、憚りながらその直前まで彼の軌跡を追っていた私が、多数の証言と彼の死後発見された37冊の日記などを用いて、数奇に彩られた人生を明らかにしたいと思う。』
 このプロローグのとおり、新潟にある不可思議な民宿雪国とそこに住む丹生雄武郎の人生が明らかにされていきます。そしてそれがほのぼのとした民宿の話だと思ったら大間違い、丹生雄武郎の周りの差別主義者に対する残虐な死の鉄槌の話でした。
 実は、美術界の奇跡、日本画壇の最高峰と賞賛される丹生の絵のほとんどは、自ら殺害したその死者達を(あるいはそれをテーマに)描いたものだったのです。そしてその現場が民宿雪国だったというわけです。
 丹生の表の顔は車椅子の障害を持った画家であるものの、裏の顔は自分を蔑み、差別をした者達に対して復讐をする殺人鬼であったということです(その根底にはある問題が横たわっています。)。
 構成も変わっていて、最初の2エピソードを読んで、何だこれはと思っているうちに、丹生の人物評に移り、これは有吉佐和子の「悪女について」の男性版かなどと思っているうちに、物語はとてつもない方向に進んでいき、休む暇を与えないままエピローグを迎えます。
 また、各所にもっともらしい仕掛けもあります。たとえば、H・Y氏の証言、C・M氏の証言などは、前者は横井英樹、後者は松本智津夫を想起させますし、文藝春秋、ポパイ、ブルータス、ピア、朝日新聞、ニューズウィーク日本版、宝島等々、実在の雑誌や、実際にいそうな美術評論家の話がでてきたりして、一瞬「ほんまでっか?」と思わせます。ただし、1番目のエピソードがあまり後半の伏線になっていないと感じるのは私だけでしょうか。
 著者樋口毅宏は、2009年にデビューして、本書が第3作目とのことであります。
                                                                          以 上(S)