2011.3.3
最近の1冊  第144回芥川賞受賞2作品-「苦役列車」(西村賢太、新潮社)、「きことわ」(朝吹真理子、新潮社)

 「美女と野獣」の受賞者といわれた今回の芥川賞(平成22年下半期の作品)。 まず野獣の方は西村賢太の「苦役列車」。作者自身の生活体験を書いた私小説ということだ。主人公の北町貫多は中学卒業以来、港湾日雇い労働の日当5500円のみに頼るその日暮らしの生活。多少の金がある限り仕事に行く気はない。そんな中、仕事先で専門学校生のアルバイト日下部に出会い親しくなり、日常に多少の変化が起こる。同い年の日下部は自分といかに違うのか。日下部はごく普通の学生なのだが、日下部に対するコンプレックス、羨望、恨みは貫多の自我を浸食していく。結局日下部は離れていくが、貫多のその日暮らしの生活は相変わらず続いていく。孤独と窮乏、求めるものは最低限の労働と酒、そして性欲の処理。19歳の貫多の自虐的な生活と感情がたんたんと描かれる。ところどころ、こういう日本語表現あるのかなと思いつつも、独特の文章で読ませていく。
 美女の方は朝吹真理子の「きことわ」。作者は慶應大学大学院在籍中(歌舞伎の鶴屋南北を研究しているそうだ)。その家系は目を見張る。父は詩人、仏文学者、大学教授の朝吹亮二、祖父は仏文学者の朝吹三吉。曾祖父は実業家の朝吹常吉と元衆議院議長の石井光次郎、高祖父は実業家の朝吹英二と陸軍中将の長岡外史。翻訳家の朝吹登水子とシャンソン歌手の石井好子は大叔母ということだ。朝吹登水子はサガンの翻訳者として有名だ。
 題名は、主人公の「貴子」と「永遠子」からきている。幼ない日(といっても貴子は8歳、永遠子は15歳)の葉山の別荘で過ごした夏休み。それから25年、解体することになった別荘での2人の再会が描かれる。「夢」のような幼少時の記憶、過去と現在のもつれるような時間の表現、25年後の現実の2人の会話。印象派の風景画を見るような文章である。文章が澄んでいる、色彩がある(作者の家庭環境から生まれたものなのか)。「苦役列車」とはえらい違いだ。
 2作品を読んでみて、芥川賞選考の判断基準は何なのかなぁ、などと思いを致してしまいました。
                                                                     以上(O)