2011.4.4
最近の1冊 「大絵画展」(望月諒子、光文社)

 第14回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作。
 ゴッホが亡くなる直前に描いたとされる絵画「医師ガシェの肖像」をめぐる小説である。医師ガシェは晩年のゴッホの主治医・精神科医だ。ゴッホは1890年7月27日に拳銃自殺をはかり、2日後に死亡した。滞在中の宿に600点余りの絵画を残していた。その中に「医師ガシェの肖像」があった。
 小説は、100年後の1990年、この絵がロンドンで競売にかかり、フランス人の競売人と競り合った日本人が1億2000万フラン(日本円で約180億円)で競り落とすところから始まる。ゴッホ死亡の7年後、たかだか300フランでフランスの女性画家に買われた絵がである。そしてこの絵をめぐって、騙す、騙されるの人間模様を描いたミステリーが始まる。舞台はもちろん日本で、現在は金融の担保品として多数の絵画とともに倉庫に眠る「医師ガシェの肖像」をめぐり、小さな騙しから、次第に大きな騙しへと発展していく。バブル当時の日本では有名絵画が銀行の担保となっていたということは事実であり、これが小説の下地をなす。果たして最後に騙される者は誰なのか、そしてどういうカラクリで騙されるのか。
 実際のガシェの肖像画の行方はどうだったのか。1990年当時の所有者はこの絵をニューヨークのクリスティーズのオークションにかけ、8250万ドル(約125億円)で大昭和製紙の斉藤了英氏が競り落とした。斉藤氏は、自分が死んだら棺桶に入れてこの絵を焼いてくれと発言し、世界中から顰蹙を買った人物だ。斉藤氏の死亡後その行方が注目されたが、1997年に斉藤家によりサザビーズの競売に出され、アメリカの投資家が9000万ドルで購入したという話だ。もちろん小説ではこのような展開にはならない。それぞれの思惑をもった詐欺師達が暗躍して物語を盛り上げ、スリリングな活劇にも似た展開が繰り広げられる。着想が斬新、1級のエンターテインメント小説として堪能できる。
 この小説は映画化したらかなりおもしろい。多分映画化されると思う。
                                                         以上(U)