2011.5.31
最近の1冊  「ワーカーズ・ダイジェスト」(津村記久子、集英社)

 ごく普通のどこにでもいそうなアラサー男女2人の生活と職場の日常を描いた小説である。読み終わって2、3日経つと、はてどういう小説だったかなというような良くも悪くも頭に残らない不思議な小説でもある。それは普通にあるわれわれの日常と同じようなことがつぶさに描かれていて違和感を感じないからかもしれない。
 2人とも普通に働いている。奈加子は大阪デザイン事務所で働き、時折B級グルメのライターのアルバイトをする。重信は東京の工務店に勤めているがもともと大阪出身である。両方とも佐藤という姓で誕生日も同じだ。社会人として10年が経ち、それぞれ仕事のストレスをかかえている。
 そして2人がどこで交錯するのかと読み進むと、重信の会社の案内を作るときに出会う。重信が大阪出張中のことである。その後重信は大阪支社に転勤することになるが、だからといって2人の関係が緊密になるわけではない。ときどき絡むのである。今ある2人のストレスは、重信は新築現場の隣人のクレーマーに悩まされていること、奈加子はクライアントのセクハラじみた要求に耐えていることだ。普段どこにでもあるような話だが、それなりに乗り越えようと努力している。このような日常の出来事ががユーモラスに描かれる。しかしそれだけで2人に大きな事件が起こるわけでもない。
 この小説は平成のプロレタリア文学であるという評者もいる。たしかに過酷な労働に耐えているわけでもなく、資本家という敵が見えているわけでもなく、淡々とながれてくる仕事を引き受けて、ストレスをためながらも適度にこなしていくという、現代の労働者の職場事情を描いているとことを指して言っているのであれば、見方を変えればまあそのとおりかもしれない。しかし読後の感動があまりないなぁ。

以上(K)