2011.6.22
最近の1冊 「絵で見る十字軍物語」(塩野七生、新潮社)

 「ローマ人の物語」、それに続く「ローマ亡き後の地中海世界」を終えて、著者は現在、「十字軍物語」4部作の執筆途上である。
 フランソワ・ミシューの書いた「十字軍の歴史」の挿し絵として描かれたギュスターヴ・ドレの絵を1冊にまとめて、著者が解説を附したのが本書である。
 「十字軍物語」を読み進むにはやや力量不足の感があり、まずは絵からということで読んでみた。
 ドレの絵の原画はペンで描かれ、濃淡はインクでつけられ、その陰影を彫版師が精巧なハッチングで再現し、それを印刷して出来上がるという。日本で木口木版と呼ぶ技法だそうだが、きわめて精巧な版画である。もちろんカラーではない。 
 「イスラム教徒にとっての聖典であるコーランでは、生涯に少なくとも一度のメッカへの巡礼を、信徒にとっての重要な義務としている。ゆえに、もともとからしてイスラム教徒は、キリスト教徒のイェルサレム巡礼に理解ある態度で接していたのだった。しかし、キリスト教もイスラム教も、自分たちの信ずる神以外の神は認めないとする一線は、絶対に譲らない一神教同士である。ひとたびこの一線が強調されすぎると・・・。十字軍とは、一神教徒同士でなければ起こりえなかった、宗教を旗印にかかげた戦争なのであった。」と、冒頭の「聖地巡礼途上で難事に遭遇したキリスト教徒に、助けの手を差しのべるイスラム教徒」の絵に解説が加えられる。しかし、大義名分をかかげたキリスト教は、1096年の第1回の十字軍を組織し、以後数百年にわたる聖地奪還の戦いが始まるのである。その善悪を含め、それは壮絶な異教徒弾圧の歴史である。
 その壮絶な歴史は著者の4部作に譲るとして、本書はその序曲としての役割も果たしていると著者ははしがきで述べている。たしかにこの1冊に十字軍の全歴史を収めようがないが、多少なりとも十字軍のイメージを感じることはできる。ただその序曲さえも、大まかな十字軍の歴史を知らなければ理解はできないのだが・・・。
 自らの勉強不足を恥じるとともに、あらためて著者の力量を認識させられてしまう1冊である。

以上(K)